しるし≪二幕≫AFRO IZM ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~≪二幕≫~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「・・・で、どうなんだよ、劇団のほうは」 と、桜火がコーヒーを淹れながら杏に向かって話す。 「ん~、別に今日の朝に到着したばっかだから、今日と明日は休暇なの」 「ほぉ~、んで、俺がなんでこの街にいるってわかったんだよ」 桜火はコーヒーを差し出し、自分もズズっと飲み始める。 「あら、別にこの街の人に聞いただけよ、“桜火ってやつ知らない?”って」 杏もコーヒーを少し飲んで、桜火が話し出さないのを見て、さらに続ける。 「それに、アンタはどこの街に行くかも言わないで、一方的にサヨナラしたじゃないの」 「・・・・・」 「アタシはね、遠征公演のたびに街にいるハンターにアンタの名前を聞いてたの」 「・・・・・」 「まさか、ドンドルマについで二番目の大都市にいるとはね~、そりゃ遠征の必要がないから会えないはずよね」 「ここまではどうやって来たんだ?」 「もちろん竜車のキャラバンで、護衛付きよ、ふふ」 「で、いつ帰るんだよ?」 「う~ん、いつだろ、公演は一週間後くらいだから、その後じゃないかな?」 「そうか・・・」 「ところで、ちゃんと御飯は食べてんの?お風呂は毎日入ってるでしょうね?あ!他の女とかできたり・・・」 「・・・・・」 「・・・、桜火?」 「悪い、ちょっと出るわ・・・」 「ちょ、ちょっと桜火!待ちなさいよ!アンタにはまだ話す事た~くさん・・・」 「帰れよ」 ―バタン― 「・・・なんなのよ!」 杏は一人、桜火の部屋に取り残された―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「・・・で、杏ちゃんを一人部屋に取り残して来た、と?」 「あぁ」 「・・・で、オマエは久しぶりに会いに来てくれた彼女に、無愛想ふりまいてノコノコ帰ってきた、と?」 「もう彼女じゃねぇよ」 「せーーーーーいっっ!!」 ―スパーーン!― 不意に、エリーが桜火の頭を丸めた紙で殴った。 「んなっ、何すんだよ!?」 「“何すんだよ”だぁ~~??」 「な、なんだよ・・・」 「アンタって人は本っっ当に乙女心がわかんない人ね~!いい?杏ちゃんはきっと・・・」 「はい、そこでストップね」 「あ、杏ちゃん・・・」 「いいのいいの、この人のつれない態度は昔っからなんだから、もう慣れてるわよ、それに」 「そ、それに?」 「アタシと桜火は、もうすでに切っても切れない関係、そう、あんな激しかった夜もあったっけ・・・」 「うはっ、そのへんをくわしーく教えて下さいよ!」 と、急に割り込んでくるリョー。 「おい杏!いい加減にしろよ!」 ―・・・・・― 静寂。 それほど混み合ってはないが、それなりに小うるさかった酒場も、桜火の怒鳴り声でいっぺんに静まる。 桜火の怒鳴り声自体が珍しい、というかチームの全員でさえ始めてだったので、つい押し黙ってしまった。 「くそっ・・・」 「あっ、ちょっと桜火待てよ!!」 ―バタン― なにやら先程と同じ展開のような気もするが、どうもこの二人はワケありらしい。 「心配すんなよ、杏ちゃん、きっとすぐケロっとなって帰って来るって!」 「そ~そ、桜火の事はとりあえずカイに任せて、俺らと飯でも食いながら昔の桜火の話でも聞かせてよっ」 と、リョーとシュウは、席をササっと用意する。 「・・・ありがと」 ニコっと笑った杏を見て、心なしか表情が緩みっぱなしの二人。 「はぁ~~、男ってやつぁこれだから・・・」 その横で、エリーはため息をついていた―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「やっと見つけたよ、まったく狩り以外でスコープ覗いたのなんて初めてだよ」 「・・・・・」 カイが丘の上で寝っ転がっている桜火に話しかける。 「で、さっきはなんであんなに怒鳴ったのさ?」 寝転がっている桜火の隣に腰を下ろし、のどかに晴れている空を見上げる。 「・・・別に、怒鳴ったつもりじゃねぇよ」 「アンタがそのつもりじゃなくても、多少は傷ついてると思うぜ?なんかワケありなのか?」 「そんなんじゃねぇよ・・・」 と言うと、桜火は上半身だけ起き上がった。 「今なら俺しかいないし、話してみろよ、一人は理解者がいたほうが今後、動きやすいと思うぞ?」 そう言ってカイは、いつも持ち歩いているのであろうか?アルコールの強い酒を桜火に出す。 「・・・・・俺とアイツが出会ったのは、ドンドルマ地方の樹海でよ」 と、桜火は酒を飲みつつ、話し出す。 俺とアイツが付き合いだしたのは、出会ってから半年くらいだったっけか。 俺がアイツと暮らすために、ちょうどハンターになって初めてイャンクックを狩った時に、恋人に申し入れたんだ。 ま、商売なんて俺には向いてなかったし、やっぱりアイツを守りたかったから、自然にハンターを選んだだけだけどよ。 すんなり了解を得られて、あん時は嬉しかった・・・。 そんで、決めたんだ。 雄火竜を狩れるようになったら、竜夫婦の紅玉で指輪でも作って・・・ってな。 ま、紅玉ってのは壊れやすいからそんな簡単には手に入らなかったけどよ。 とりあえずはリオレイアを狩りまくって、雌のほうの紅玉を手に入れたんだ。 ちょうどそん時だったかな、アイツが“女優になる!”って言い出したのは。 ほら、女優ってのは人気商売だろ? 俺みたいないつ死ぬかもわかんねぇ商売の男と付き合ってる、なんて知られたらそりゃ大変だ。 最初は“そんな事、全然気になんない”って言ってくれてた。 でもよ、考えてもみろよ? アイツが女優になって、この世界を飛び回るなんて事になったら? 道中はいつモンスターが出てくるかわかんねぇし、もし護衛のハンターが未熟だったら? そう考えたら、やっぱりドンドルマにいる事ができなくなった。 ドンドルマってとこは、確かに知られている大陸の中では一番大きな街だ。 でも、回ってくる依頼なんかは大抵貴族の楽しみだとか、軍の侵攻に邪魔なモンスターの排除だとか、そんなんばっかだ。 普通の人達が、貿易道や村付近のモンスターだとかに困っている依頼は、ミナガルデに集められるって聞いてよ。 そういうところならキャラバンの移動にも使われるから、やっぱりそっちのモンスターを狩ったほうがいいと思ったんだ。 ・・・・で、出した答えは、アイツと別れる事。 俺がいなくなったほうが、稽古も沢山受けれるし、やっぱりそれしか考えなくて済むしな。 最初は“嫌だ嫌だ、なんで?どうして?”ってうるさかったよ。 そりゃ沢山殴られたし、沢山泣かれたよ。 で、しょうがねぇからアイツが寝てる間に俺は街を出た・・・。 実際、俺が狩りに出ている間は稽古どころじゃなかったんだろう、俺と別れてからアイツは有名になった。 俺は俺で、この街でリョーに出会って、猟団も作る計画を立てていた。 もちろん依頼の優先は困った人を助け、弱い人を守る事。 そんな依頼をこなしていけば、大抵は貿易とか移動に使われる道に巣食うモンスターも排除できる。 別れたアイツに誇れる仕事内容だし、同時にアイツを守る事もできる。 ほら、よく考えてみろよ。 俺なんかがそばにいて、アイツの夢の邪魔をしたりするより、何倍もいいだろ? アイツの夢の邪魔をするよりかは、アイツが危険な目に遭わないように、夢に向かって集中できるようにするほうが。 そっちのがなんかカッコイイだろ? だから、俺はアイツに行き先も告げずに出て行ったんだ。 行き先なんて教えちまったら、アイツの事だから変に俺のこと思い出して、また気ぃつかわせちまうからな。 この街で、アイツが人気の女優になった事は聞いたよ。 もう俺の事は忘れて、女優に集中して、新しい恋人も出来て、楽しく幸せに過ごしてると思ってた。 けど、アイツは忘れてなんかいなかった・・・。 こともあろうに、街に遠征公演に来るたびに俺の事を探してたんだってよ。 「それ聞いて、決めたよ」 そう言って、酒瓶の中身を全部飲み干す。 「アイツに婚約申し入れてやる・・・」 「おぉっ、マジかよ!?」 カイは驚いて桜火のほうを向く。 「ここまで想い続けてくれてたんだ、ここで引き下がっちゃぁ男がすたるってもんよ・・・」 そう言って立ち上がった桜火の顔は、少し赤みがかっていた―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「お~い、ジン!ジン!いるかぁ~?」 「ニャ~、その声は桜火ニャ!どうかしたのかニャ?」 と、工房の奥から、獣人族のジンが出てきた。 後ろからは、右腕に黒い布を巻いている、この工房で親方のシドがのっそりと歩いてくる。 「ブニャ!?桜火、すごくお酒臭いニャー!?」 「こんな真っ昼間から酒なんて、なんかあったのか?」 と、親方が桜火に話しかける。 「別に・・・なんでもねぇよ、ところでジン、頼みがあんだけどよ」 そう言って桜火が取り出したのは、淡くオレンジがかったものと、薄く碧が入った宝石の塊。 「ニャ!?これはなかなか手に入らない竜夫婦の紅玉ニャ!?桜火、こんなモノ持ってたのかニャ~!」 竜夫婦とは、火竜リオレウスとリオレイアの事。 この二頭は、繁殖期になるとツガイになって縄張りを守る習性があるために、たびたび二匹同時討伐の依頼が出される。 その超難関クエストの事を、“竜夫婦”と言う事から、しだいにこの二頭を現す俗語になったものだ。 「こんな素材を持ってくるなんて、さては桜火、新しい武器の依頼かニャ?」 「いや、こいつで、そのよ・・・、指輪を作ってほしいんだ」 「にゃにぃ!?」 ジンは驚き、ただでさえ大きい瞳を、さらに大きくする。 「お前、手先は器用だろ?サイズはここに書いてあっからよ、頼むわ」 「桜火・・・、アンタ、こんな珍しい素材を指輪にしちゃうなんてバチが当たるニャ」 そう言ってジンは渡された紙を受け取る。 「はっはっは、ジン、お前もまだまだ未熟だな!」 そう言ってシドは自慢の髭をさする。 「命がけの狩猟で手に入れた宝玉で指輪を作るなんて・・・、男のロマンが溢れてるぜ」 「ニャ?そういうもんなのかニャ?」 「そういうモンだ、お前ら獣人族も婚約を申し入れる時は特別なマタタビを命がけで摘んでくるだろ?」 「そう言えばそうだニャ~」 「なら、気持ちもわかるだろ?お前はデザインもセンスがあるからな、ここは一つ、頼まれてやれよ」 と、シドはジンへしばらくの休暇を申しつけ、自分自身も休暇を工房長に申し込みに行く。 「桜火!なんかリョーが呼んでるぞ!次のクエストが決まったみたいだ!」 「おう、わかった、今行く!」 カイは桜火を呼び寄せ、一同が酒場へ集合する―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「で?で?そん時桜火はなんて言ったんだ?」 「それはぁ~~~、ヒミツ!二人だけの思い出だし~・・・」 賑やかな酒場の一角で盛り上がっているのはリョーと杏。 もちろんシュウ、エリー、クロウ、リンも一緒だ。 「お~い、桜火連れてきたよ~」 と、手を上げて合図するのはカイ。 「お、来たな!桜火!次のクエストが決定したぞ!」 「あら、お酒でも飲んだの?顔が真っ赤よ?」 杏が席を立ち、少し赤い顔をした桜火の側へ寄る。 「ほっとけよ・・・、それよりリョー、次のクエストは?」 桜火は杏を無視し、席に座る。 杏は桜火の隣へさも当然のように座る・・・が、桜火はやはり頬杖をつきながらそっぽを向いている。 「次のクエストは・・・、杏ちゃんの竜車キャラバンの護衛だ!」 「マジかよ?」 「一週間の間はここで公演をやるんだが、その後はドンドルマに帰るそうだ、俺らはその護衛だ」 「って事は、一週間は休暇だね?」 カイは嬉しそうに酒を飲む。 「うむ、とりあえず杏ちゃんの舞台をタダで見れるのと、プラス報酬金は120000zだ」 「じゅっ、十二万だと!?」 桜火は驚いて、つい杏のほうに顔を向ける。 「うん、団長が言うには、ドンドルマは遠いから二組のパーティを雇うの、交代制で護衛をやってもらうって方針なんだって」 「一人一万五千かよ、すげぇな・・・」 「ま、アタシとしてはやっぱり恋人のアンタに守ってもらいたいし、最上級のハンターだしね、受けてもらって助かるわ~」 「おい、まだ受けたワケじゃねぇぞ・・・」 「桜火、さっきの言葉、忘れたわけじゃないよな?」 と、カイが桜火にボウガンの銃口を向ける。 「うっ・・・、わかったよ、引き受けた、あ~ぁ~、ったく!」 桜火は席を立ち、酒場を出る。 「なになに?さっきの言葉って?」 杏が興味津々でカイに尋ねる。 「それはヒミツだ、そのうち桜火から聞くことになるよ」 と、それだけ言ってカイも席を立つ。 「えぇ~、気になる~、でもま、いっかな、アイツがいつか話してくれるなら・・・」 杏はニコニコしながらなにやら妄想している。 「ところで、八人パーティなんだけど、もう一人は今別の任務中なんだ、またあとで紹介するよ」 「うん、楽しみにしてる、アタシはそろそろキャラバンに戻るね!桜火に舞台観に来るように、よろしく!」 そう言って杏は酒場を出た―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「リーシャ、愛してる!」 「だめよムスタディオ、私と貴方は身分が違うもの、お父様が決して許してはくれないわ・・・」 「そんな事はない、僕があの古龍をも狩れるハンターになれば、結婚を許すって言ってくれてるじゃないか」 「そんなの無理に決まってるじゃない!きっとお父様は、貴方が狩りに出て戻ってこないことを期待してるんだわ・・・」 ・・・・ここはミナガルデの広場に設置された大きなテント。 中は劇場になっていて、もちろん街にやってきた劇団が設置したテントだ。 今このテントの場内では、ミナガルデで最初の公演が開かれていた。 演目は“愛のために駆る・・・”という、身分の違う二人の恋を描いた作品。 これが今、ドンドルマでは大人気で、もちろんヒロインは杏。 主役の男性には、大物新人で、しかも元ハンターのピートという俳優が演じている。 「いや~、よかったよ!狩りのシーンなんてなかなかリアルだったと思うぜ?」 と、楽屋に集まっているのはリョー、シュウ、カイ、エリー、クロウ、リン、戒。 桜火はいないみたいだ。 「ありがとう!・・・桜火は来てないの?」 「あぁ、途中までいたんだけどな、いつの間にかいなくなっちまったよ・・・」 杏の問いにカイが答える。 「そっか、まぁ、いいかな、多分恥ずかしくて後ろのほうで見てたんだと思うしっ」 と、ちょっと落ち込んだ様子だ。 「おう、アンタ達が同行してくれるハンターか!」 「団長・・・」 と、そこに入ってきたのは見るからに硬派そうな男。 四角い顔立ちで、アゴに長い髭を生やし、それを小さなヒモで結わえている。 「出発は来週の“風の日”だ、日の出と共に行くから寝坊しないようにな、ワッハッハッハ!」 と、豪快に笑いながら楽屋を出て行く団長。 「あ、そうだそうだ・・・」 と、何か思い出したのか、急に立ち止まる。 「杏・・・」 「はい?」 「なんだぁ~!あのセリフ棒読みの演技は!!お前演劇をナメてんじゃねぇだろうな!ちゃんと稽古はやってんのか!」 「は、はいーーーー!」 「はいー!じゃねぇんだよ、感情入らないなら代わりに表情作るとかな~、明日も本番前にみっちり稽古つけてやっからな!」 ・・・・その場にいたハンター全員が、この気まずい楽屋にいない桜火をうらやましがった―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「・・・・くそっ」 来客用の少し大きめのテーブルに足を乗せ、煙草を吸いながら酒を飲んでいる桜火。 薄汚れたベッドには淡いオレンジ色の光が差し込んでいる、ちょうど夕暮れ時みたいだ。 俺は何考えてんだ? 婚約だと? 馬鹿言うな、もし婚約が成立なんかしてみろ、アイツの夢壊すようなもんだろうが・・・。 俺はなんのためにアイツと別れたんだよ。 そうだろ、アイツの笑顔のために、アイツが幸せでいられるために別れたんだろう? だったら・・・、だったら馬鹿な考えはやめろ、訂正するんだ、“あの時の俺はどうかしてた”って。 出発は明後日か、到着予定は3日、アイツの顔見られるのもあと5日か・・・。 ・・・って何考えてんだ、未練は捨てろ、そもそも―― 「な~に考え込んでんの?」 と、ひょっこりと桜火の眼前に現れたのは杏、いつの間に入ってきたのだろうか。 「おわっ」 「アタシがせっかく来たのに知らんぷりなんて、と思ったら頭かきむしって・・・」 「・・・・見てたのかよ」 「“くそっ!”から見てたわよ」 「・・・」 「それにしても・・・」 と、杏が部屋を見渡す。 「なんでこないだは気が付かなかったんだろ、こーんな物騒な部屋に住んでんのねアンタ」 杏の視線の先の壁には大きな剣が水平に立て掛けられている。 その下には細長い刀、さらにその近くには棒や小剣、小剣の横には盾。 と、数多くの種類の武器と思われるモノが飾られている。 部屋の隅にある大きな棚には、上から兜・鎧・篭手・腰当て・具足と、ハンターでない杏にもわかる防具が置かれていた。 「物騒とはなんだ、これらは人に危害を加えるモンじゃねぇんだから、それより触んなよ、危ないからよ・・・って杏!」 桜火が少し怒鳴ると、そこには小悪魔のような顔で片手剣を手に持つ杏の顔があった。 「触んなって・・・」 桜火は少々呆れたように杏の手から片手剣を奪い取る。 「冗談よ、ジョーダン・・・、あらら、これなに?」 杏が床から小さな紙袋を拾う。 「だから触ん・・・」 取り返そうとする桜火をするりとかわし、袋を開ける。 「こ、これって・・・」 杏は袋の中身を手に取り、ふるふると震えだす・・・。 桜火は頭をかき、バツが悪そうにしている。 ―バチィィィン― 「んなっ」 情けない声が桜火の部屋に鳴り響く。 「アタシの他に女がいたなんて・・・、アンタ最低ね」 「ち、ちがっ」 「もういいわよ、なんだかアンタの事探してたのが馬鹿らしくなってきた」 「お、おい杏・・・」 部屋から出ようとする杏を桜火は止めようとする。 「触らないで!」 と、杏の怒鳴り声が響く。 「アンタとはあと5日でお別れね、もう話すこともないだろうから先に言っておきます、“さようなら”!」 ―バタン― 「あ~・・・、あ~ぁ」 桜火は諦めたのか、追いかけることもなく椅子に座る。 机の上には、綺麗にカットされた宝玉のついた指輪が二つ、無造作に置かれていた・・・。 「桜火~!!なんだ今の声は!女でも泣かしたんかー?」 隣の部屋のハンターが入ってきた。 「な、なんでもねぇよ・・・」 慌てて指輪をポーチにしまう桜火。 「またまた~、さっき女が走ってくの見たぞ、あれ、お前の女だろ?」 「ちがわ~い!」 桜火の必死のごまかしは、数十分にわたった―――。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ジャンル別一覧
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